外国人は日本の不動産を購入できるのか?必要な書類や手続きは?について日本弁護士が徹底解説!
インバウンド需要の拡大や2020年初旬までの好景気に伴って、外国人が国内不動産の購入を希望するケースが増加しています。売り手・買い手ともにスムーズな取引を心がけたいものですが、不動産登記や税務を巡って外国人特有の問題に阻まれがちです。
国際取引に備えて学んでおきたいオーナー等が参考にできるよう、本記事では外国人が買い手となる不動産取引の手続きについて解説します。
外国人は日本の不動産を購入できるのか
日本の不動産を外国人が購入することそのものに関して、特に禁止や制限があるわけではありません。購入時にかかる費用も、日本人が買い手となる場合と同じです。
不動産の国際取引に関する法律は各国異なりますが、日本の場合は大正期に制定された「外国人土地法」が挙げられます。この法律に基づいて何らかの制限がかかったことはありません。外国人土地法以外には「外国政府の不動産に関する権利の取得に関する政令」(昭和24年政令第311号)でも制限があるものの、ほとんどの国(178か国)が除外されており、実際に運用されることはありません。
以上のように、外国人による不動産の取得が法律上制限されることは、実質的に全くないのです。
外国人による不動産購入の流れ
不動産購入の流れは、買い主の国籍に関わらず以下の通りです。
外国人が買い主になる場合、下記のうち「売り主による買い主の本人確認はどうしたらいいのか」が問題になります。
外国人による不動産購入の流れ
売買交渉
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売り主による本人確認
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購入契約の締結(※必要であれば融資orローン契約)
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所有権移転登記
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必要に応じて財務大臣に届出
外国人の不動産購入の際の本人確認方法
不動産の買い主について本人確認する場合、国籍問わず「顔写真付きの証明書」を使います。
このルールを外国人に当てはめるなら、居住者であれば「在留カード」や「特別永住者カード」、非居住者であればパスポートの提示が必要です。
提示された本人確認書類はコピーを取るよう、売り主は心がけましょう。
外国人が不動産を購入した場合の届出義務
外国為替及び外国貿易法(外為法)では、非居住者が日本の不動産を取得した場合、届出義務があるとされています。この法に基づき、不動産の外国人購入者は「国内の事務所に勤務する者」と「入国後6か月以上経過している者」を除いて原則非居住者扱いとなり、報告義務を負います。
なお、外国人に義務付けられた不動産取得の報告は、日本銀行を通じて財務大臣宛てに行います。また、事後報告で構わないとはされているものの、不動産取得の日から20日以内との期限がある点に要注意です。
報告の際に使う書面は、日本銀行が配布する「外為法第55条の3に係るもの(様式22)」を用います。
外国人が不動産を購入しても報告不要になる例外ケース
外国人非居住者が不動産を購入した場合でも、下記の5ケースいずれかに該当する場合は報告不要です。
報告不要になるケース
- 他の非居住者から不動産を取得した
- 非居住者本人の事務所用として取得した
- 非居住者本人またはその親族の居住用目的で取得した
- 非居住者の使用人もしくはその他従業員の居住用目的で取得した
- 国内で非営利目的の業務を行う非居住者が、この業務を遂行するために取得した
外国人による不動産取得の所有権登記の申請方法
日本の法律上、不動産の所有権について第三者に対抗できる手段は「登記」のみです(民法第177条)。言い換えるなら、不動産の取得者が建設・増改築・売却・賃貸などを自由に行うには、法務局で名義人として登録されていなければなりません。名義人としての登録のため、売買取引で取得した場合は「所有権移転登記」が必要になるのです。
外国人による不動産取得
所有権移転登記の必要書類
所有権移転登記の際は、不動産を取得した人の国籍に関わらず以下の添付書類が必要です。
このうち、外国人が取得した場合に問題になるのは「買い主の住所を証する書面」と「買い主の印鑑証明書」です。
所有権移転登記で必要な添付書類
- 登記識別情報(※売り主が用意)
- 登記原因証明情報(売買契約書など)
- 固定資産評価証明書
- 売り主の印鑑証明書
- 買い主の印鑑証明書
- 買い主の住所を証する書面
- 委任状(※代理人に申請を任せる場合)
外国人による不動産購入時の必要書類
外国人が不動産の取得者になるケースで問題となる書類は、日本人取得者なら居住地役場で交付してもらえる「住民票」や「印鑑登録証明書」で事足ります。
しかし、上記のような書類を保管・交付する制度は、東アジア圏の限られた国特有のものです。多くの外国人は同様の書類を入手できない状況ですが、代わりに登記申請に使えるものはないのでしょうか。
住民票の代わりになる書類
中長期在留者や特別永住者など、日本で住民登録されている外国人であれば「外国人住民に係る住民票の写し」を役場で取得できます。あとは、本邦人と同じく登記申請で添付するだけで構いません。
一方、日本で住民登録されていない外国人は、住民票に代わる「宣誓供述書」を取得しなければなりません。宣誓供述書は、国籍国の公証人の認証によるものでも、在日大使館領事部で認証されたものでも構いません。
外国法人である場合の追加書類
不動産の購入者が外国法人である場合は、法人情報を証明するための追加書類が必要です。なお、準備する書類は国内営業所の有無によって異なります。
本邦に営業所を置いている外国法人の場合…
追加書類は「会社登記簿謄本」+「資格証明書」+「代表者の身分証明書(パスポート)」
本邦に営業所を置いていない外国法人の場合…
追加書類は「法人情報に関する宣誓供述書」+「代表者の身分証明書(パスポート)」+印鑑もしくはサイン
印鑑証明書の代わりになる書類
印鑑証明書も、日本で住民登録されている外国人であれば本邦人と同じものを入手できます。ただし、この点も本邦人と同様に、事前に実印を作成して印鑑登録しなければなりません。
一方、日本で住民登録されていない外国人は、印鑑登録証明書に代わる「サイン証明書」が必要です。サイン証明書に関しては、以下いずれか任意のもので構いません。
サイン証明書の種類
- 国籍国の在日大使館で作成されたもの
- 在日国籍国領事館で作成されたもの
- 日本の公証人が作成したもの(※在日国籍国領事館がサイン証明書の交付に対応していない場合)
外国人が不動産を購入した時の費用内訳
外国人が不動産を購入した時点での、物件によるものの購入価格の3%~8%が目安です。費用内訳の大半は国税と地方税です。
購入時点でかかるもの
- 印紙税(※購入契約時にかかる)
- 登録免許税(※登記申請時にかかる)
- 不動産取得税(※住民登録されている場合のみ発生)
- 抵当権設定のための登記費用(※融資やローンを利用する場合のみ発生)
- 消費税(※売り手が個人である場合に発生)
購入後にかかるもの
- 固定資産税(※不動産を保有中は毎年発生)
- 譲渡所得税(※売却した場合に発生)
- 賃料収入等にかかる所得税
- 住民税
外国人が不動産を取得した場合の課税の仕組み
外国人が不動産を取得した時の課税方法は、最初に触れたように本邦人と同じです。
以下では、購入費用の内訳で紹介した課税種類ごとに、その仕組みや税率を紹介します。
印紙税
不動産の購入契約書(譲渡契約書)は印紙税法上の「課税文書」(第1号の1文書)にあたり、税額相当の収入印紙を貼り付ける必要があります
下記表は、契約書に記載された契約金額が10万円を超えるものに対する軽減措置(リンク)を踏まえ、必要な収入印紙の金額を一覧化したものです。
不動産の購入価格 | 税額(収入印紙の額) |
10万円超え50万円以下 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 1千円 |
500万円超1,000万円以下 | 5千円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円超1億円以下 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 6万円 |
5億円超10億円以下 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 32万円 |
50億円超 | 48万円 |
登録免許税
所有権移転登記の際に必要な登録免許税は、不動産の価額(=購入価格)の0.2%と定められています。購入契約書と同じく、税額相当の収入印紙を登記申請書に貼り付けます。
参考:登録免許税の税額表
固定資産税
固定資産税は、居住者か非居住者かに関わらず、毎年1月1日時点で不動産を所有していれば賦課されます。課税額は毎年の自治体の評価(=固定資産税評価額)に基づき、標準税率1.4%で計算されます。
所得税
日本国内に所在する不動産から得られる所得(賃料収入や売却時の対価)については、源泉徴収された上で確定申告が必要になり、この際に所得税がかかります。なお、固定資産税と同じく、所得税も居住者か非居住者かに関わらず賦課対象になります。
源泉徴収の率については、下記のように定められています。
- 不動産の賃貸料等に対する源泉徴収税率:42%
※所有者本人またはその親族の居住用として借り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。
- 土地等の譲渡対価に対する源泉徴収税率:21%
※土地等の譲渡対価が1億円以下で、かつ所有者本人またはその親族の居住用として借り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。
住民税
住民税は「均等割」と「所得割」に分かれており、課税の仕組みが異なります。
均等割に関しては、賦課期日(毎年1月1日)に住民登録されていない場合でも、日本国内に自己の居住目的の不動産を所有していれば賦課されます。
一方の所得割に関しては、賦課期日に住民登録されていない人には賦課されません。したがって、国外に住む外国人が不動産を所有している場合、負担するのは均等割のみとなります。
外国人不動産保有者は「納税管理人」の選任が必須
最後に注意したいのは、外国人が海外に居住する場合は「納税管理人」を選任して納税申告書の提出等を行ってもらう必要がある点です。
納税管理人は「できるだけ納税地を所轄する税務署の管轄区域内に住所等を有する者のうち」から選ぶ必要があり、税理士等の資格者が候補として挙げられます。
まとめ
外国人による国内不動産の取得に関して、購入制限や課税面での不平等は特にありません。
一方で、住所情報や印鑑・サインなど、証明情報に関して特別対応が必要になる問題があります。複雑な費用体系や課税の仕組みに関しても、購入時点で十分理解を深めておかなければなりません。
総じて、外国人による不動産購入は、本邦の関連法令に詳しく異文化間のコミュニケーション能力が高い人物によるサポートが必要です。取引を開始する時は、司法書士・弁護士・税理士などに相談しましょう。