共有持分不動産の売却の方法は?具体的なトラブルやリスク、対処方法について解説
共有持分不動産の売却については、「他の共有持分の名義人に相談しないと売れないのか?」「共有持分不動産を売却するには、何から始めればよいのかわからない」などといった疑問や悩みを抱えることも珍しくはないでしょう。
共有持分不動産を売却するなら、まずは他の共有持分の名義人との話し合いから考え始めなくてはなりません。正しい方法を知らずに、売却を進めると、思ったように売却できなかったり、関係者とのトラブルに発展したりすることもあります。
一方で、共有持分不動産はさまざまな要因で発生します。例えば夫婦が共有名義でマンションを購入したり、親の不動産を相続したりした場合には、共有持分不動産となります。このような場合に、自己の持分に基づいて、共有持分不動産を売却したいと思っても、うまく行かないことがあります。
したがって、共有持分不動産の基本的な知識を持ったうえで、どのように売却を進めるのが自分にとって有効なのかをきちんと考慮したうえで、具体的な売却の手続きを始めることが必要です。
今回は、共有持分不動産の売却の方法について、詳しく説明していくことにします。
共有持分不動産の売却すべき理由とは
共有持分とは
不動産の「共有持分」とは、1つの不動産を複数で共有する場合のそれぞれの共有者の所有権の割合のことです。ここでいう共有持分とは、権利上のものであって、物理的なものではありません。例えば、ある土地100㎡について、共有者Aの持分割合が4分の1の場合、単純に100㎡÷4で25㎡が共有持分ではないという点に注意です。つまり、共有割合が4分の1でも、持分割合に関わらず共有物(この場合は不動産)をすべて利用できます。共有持分はトラブルの原因になることが多々あります。
共有持分不動産ができる理由
共有持分不動産とは、複数の人が共有している不動産のことを言います。すなわち、1つの不動産を複数の人が共有しているということです。このような状況というのは、どのようにして発生するのでしょうか?共有持分不動産が発生するというケースは、以下のような原因が考えられます。また、ケースごとに、問題となることも違ってくることがありますので、それぞれのケースの典型的な問題点も上げようと思います。
不動産を共同購入した時
まず、1つの不動産を複数の人が共同で購入した場合に、その購入した不動産は共有持分不動産となります。その典型的なケースも次の2つの場合が考えられます。
新居購入により、夫婦で不動産を購入するケース
新居を購入する際に、自己資金を夫婦双方がそれぞれ負担するなどの場合には、購入した新居は共同持分不動産になります。この場合、夫婦がそれぞれ拠出した資金割合に応じて、共有名義で登記を行うことになります。子供もおらず、どちらかが亡くなるまで婚姻関係が継続していれば、問題は起こることはないのですが、夫婦が離婚することになり、共有名義から外れたいというようなことが起こった場合、どのように解決するのか?という問題が発生することになります。また、子供がいるような場合で、相続者が複数いる場合には、後で説明する相続によって共同持分不動産ができるのと同じようなケースになります。
二世帯住居購入により、親子で不動産を購入するケース
親と子で二世帯住居を購入する際に、住居となる不動産を購入するための自己資金を親子双方がそれぞれ負担するなどすることになります。その場合、それぞれが拠出した資金割合に応じて、共有名義で登記を行うことになるのが一般的です。すると、購入した二世帯住居は共有持分不動産となります。このような場合に問題となるケースとしては、当初結婚の予定のなかった子供と収入合算をして住宅購入したものの、子供が結婚をして引っ越ししてしまうような場合が考えられます。子供が引っ越しをした後、子供は子供の側の結婚生活でお金が必要となり、共有持分不動産の住宅ローン支払いが滞りがちになり、住宅ローンの支払い負担が重くなって、結果、共同持分不動産の売却をしたいと言い出すというような場合が考えられます。このような場合には、共有持分不動産をどのように取り扱うのか?という問題が発生します。
不動産を相続した時
親から相続した不動産を、相続した時には特に活用する予定もないため、兄弟姉妹などで共有することにした場合、その不動産は共有持分不動産となります。その共有持分不動産の名義を共有名義で変更しないでいるうちに、その子世代、孫世代へと相続されていくことによって、共有持分不動産の共有者がどんどん広がってしまい、細分化されてしまったため、どうしたらよいのかわからないというようになってしまうこともあります。
共有持分不動産を売却できるのか?
では、複数の所有者名義の共有持分不動産を売却するとなったときには、どうすれば良いのでしょうか?
実際に共有持分不動産は売却することが可能なのでしょうか?
結論から言うと、共有持分不動産を売却することは可能です。
ただし、共有名義は単独名義と同じ手順での売却が可能ではあるものの、売却に必要なすべての手順で常に共有持分不動産の名義人全員の意思確認と書類・同席が必要となるということを覚えておく必要があります。
共有持分不動産の売却方法
さて、共有持分不動産の売却は可能ということですが、具体的に共有持分不動産を売却する方法には、どのような方法があるのでしょうか?共有持分不動産の売却方法には、以下のような選択肢があります。
- 共有名義者全員の了承を得る
- 自分の持分を売却する
- 名義変更して所有者を1人に統一する
共有持分不動産の売却のそれぞれの方法について、詳しく見ていきたいと思います。
共有持分不動産の共有名義者全員の了承を得る
共有持分不動産の持分を持つ所有者全員の許可を得られれば、共有持分不動産を売却することができます。
この方法は、共有持分不動産の売却方法としては、最もシンプルな方法ですが、前述した通り、すべての手続きで共有持分不動産の名義人全員の意思確認と書類・同席が必要となります。よって、共有持分不動産の持分を持つ人の中に一人でも反対者がいると話を進めることが出来ません。
共有持分不動産の自分の持分を売却する
次に、共有持分不動産の持分の割合に応じて、共有持分不動産の自分の持分だけを売却することもできます。この場合、共有持分不動産のほかの共有持分者の許可は必要ありません。ただし、自分の共有持分不動産の持分がどこまでなのかを決める必要があり、建物を物理的に分けることはできないので、共有持分不動産が土地の場合のみに使える限定的な方法です。しかし、実際には、なかなか、共有持分不動産の共有持分だけ購入したいという人は少ないという問題点があります。
共有持分不動産の名義を変更して所有者を1人に統一する
共有持分不動産の共有持分権者のうちの1人が、ほかの共有持分不動産の共有持分権者の共有持分割合をすべて購入し、単独名義になる方法です。
誰かが共有持分不動産の単独名義になれば、それ以降は誰からも共有持分不動産の処分について許可を得る必要がないため、自由に共有持分不動産を売却できます。
共有持分不動産の売却先の選び方
共有持分不動産の売却の方法としては、自分自身で売却先を探すという方法と、弁護士に依頼をするという方法、不動産業者・買取業者に依頼する方法が考えられます。これらの方法について、見ていきたいと思います。
自分自身で売却先を探す方法
一番簡単で、費用も掛からない方法になります。理論的には共有持分不動産の共有持分のみの売却も可能なのですが、実際には「共有持分だけの不動産を購入したい」と思う人はほとんどいないのが現実です。よって、共有持分不動産の売却先を自分自身で探すということはとても困難です。
結局は、対象の共有持分不動産を欲しいと言っている知り合いに売却するか、共有持分不動産の自分の持分を他の共有持分権者に売り渡すことになってしまうと思われます。
持分売却を弁護士に依頼する
共有持分不動産の売却を弁護士に依頼するメリットとして挙げられるのは、「他の共有者に買取りを迫ることができ、また、実際に共有持分を売却した際に得られると思われる実勢価格(取引価格)をベースに交渉を進められる」という点でしょう。
仮に他の共有持分不動産の共有者が買い取るお金があるにもかかわらず買取りを拒んだ場合や、実勢価格(取引価格)に近い金額での買取りに難色を示した場合には、「共有物分割訴訟」を提起することで、共有者に共有持分を実勢価格(取引価格)に近い金額で買い取らせることを実現できる場合もあります。
したがって、弁護士に共有持分の売却を依頼することで、実勢価格(取引価格)での不動産共有持分の売却を目指すことができます。
なお、すぐに共有持分を現金化したいという場合は、次に説明する共有持分買取業者に持分を買い取ってもらうという選択肢も存在します。しかし、この場合は、買取価格は実勢価格(取引価格)よりも低いものとなってしまうケースがほとんどです。
そのため、すぐにお金が必要という事情がない限りは、共有持分買取業者に持分を売却するよりは、弁護士に共有物分割請求を依頼し共有者に共有持分を買い取るよう求めた方が得策だといえます。
不動産業者・買取業者に依頼する
できるだけ早く共有持分不動産の共有持分を現金化したいという場合には、不動産会社の担当者など、専門家に相談してみるのも良いでしょう。不動産会社の担当者はさまざまなケースの売却事例を経験してきているので、共有持分権者の1人から売却についての賛同を得られない状況についても効果的なアドバイスをもらえる可能性があります。
また、場合によっては共有持分不動産の売却に反対する他の共有持分権者を直接説得してもらうという方法も考えられます。
なお、相談する不動産会社は一括査定サイトで連絡を取った業者がベストだと考えられます。一括査定で査定を頼んでいる過程で、実際に対象となる共有持分不動産の状況、共有持分権者の関係性を熟知しているので、単純に話が早いからです。
不動産会社のほかに、共有持分不動産買取の専門業者に依頼するという方法も考えられます。共有持分買取業者は共有持分の買取を専門に手がける業者です。共有持分買取業者を利用すると共有持分不動産を「スピーディーかつ確実に買い取ってもらえる」というメリットがあります。
共有名義の共有持分不動産売却では、共有持分だけを買いたい一般の方を探してもなかなか見つかりません。
また、ほかの共有持分不動産の共有持分権者に売却する場合にも、「誰にいくらで売るのか」など根気がいる交渉が必要になります。そして共有持分割請求をするにしても、ほかの共有持分権者全員との打ち合わせが必要になり、時間と手間がかかります。
共有持分買取業者を利用すれば、査定を受けるだけで価格面の交渉が即座に進み、数週間で手続きを終わらせることができます。
共有名義の共有持分不動産の売却は、長い間待ったとしても一般の買い主があらわれない可能性が低くはありません。ほかの共有持分権者に買い取ってもらう形が最良ではありますが、誰も買いたいという人がいなければそれまでです。
そういった状況では、査定を受けて提示される価格で問題なければ確実に買い取ってもらえる共有持分買取業者を利用するのが得策と言えます。
買取業者を利用する、シンプルな理由と言えるのが「労力がかからず楽な点」です。交渉や売却活動などを一切おこなわず、査定を受けるだけで共有持分不動産の売却が進みます。条件がまとまれば、契約や引き渡しに向けてスムーズに話を進めるだけです。
しかしメリットが多い一方で、共有持分買取業者の利用にはデメリットもあります。
共有持分不動産を納得の価格で売却しようと思えば、ほかの共有持分権者に売却するのが一番良いのは間違いありません。なぜならそのほうが、共有持分不動産を有効活用できるからです。
赤の他人が共有持分不動産の共有持分だけ購入しても使い道がない可能性があります。
もちろん、共有持分買取業者が共有持分不動産を購入するのであれば、将来的に周辺の土地を買い占めるなり、「分筆」して利用するなりといった戦略が共有持分買取業者にある場合もあるでしょう。しかし、それにも時間と費用がかかります。買い取った共有持分不動産を商品化するまでにお金や時間がかかることを差し引くと、共有持分不動産の買取価格は相場よりだいぶ安い金額での買取となる可能性は高いです。
また、共有持分買取業者に売却した場合、ほかの共有持分権者とトラブルになる可能性があります。
共有持分買取業者は共有持分を買い取ったあと、ほかの共有持分権者に対して売却話を持ちかけるのが一般的です。
自分の持分である不動産を業者に売却するのは権利者の自由ですが、ほかの共有持分権者のなかにはそのことを快く思わない人もいます。
もともと良好だった関係性が、外部の業者を通して共有持分不動産の売却をおこなったがために悪化してしまうという可能性がありますので注意しましょう。
共有持分を売却するときに必要な費用
共有持分を売却する際にかかる費用は以下のとおりです。
- 登記費用
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 仲介手数料
それぞれ詳しく見ていきましょう。
登記費用
共有持分不動産の共有持分を売却すると不動産の名義変更(売渡の登記手続き)をする必要があります。さらにその共有持分不動産に担保があれば担保抹消の登記が必要になり、加えて、共有持分不動産の登記簿上の氏名住所と現在の氏名住所に相違がある場合は、氏名住所の変更登記が必要になります。費用の目安は以下のとおりです。
売渡費用 | 報酬2~3万円(司法書士へ依頼する場合) |
担保抹消 | 報酬1~2万円(司法書士へ依頼する場合)実費1000円(不動産1物件につき) |
氏名住所変更 | 報酬1~2万円(司法書士へ依頼する場合)実費1000円(不動産1物件につき) |
司法書士へ依頼すると別途、決済立会の日当や調査費などがかかります。
譲渡所得税・復興特別所得税
譲渡所得税
共有持分不動産を売却したことによって利益が出た場合、所得税と住民税が課税され、この2つを合算して「譲渡所得税」と呼びます。譲渡所得税の計算方法は以下のとおりです。
【不動産の保有期間が5年超の場合】
譲渡所得(売却して得た利益)×(15%【所得税】+5%【住民税】)=譲渡所得税額
【不動産の保有期間が5年以内の場合】
譲渡所得(売却して得た利益)×(30%【所得税】+9%【住民税】)=譲渡所得税額
復興特別所得税
復興特別所得税とは、東日本大震災の復興のために制定された税金で、所得のある人全員が支払います。税額は所得税の2.1%です。
印紙税
印紙税とは、契約書の作成にかかる税金です。売買するものの価格に応じて税額が決められています。印紙税は「契約書の作成」にかかる税金ですので、収益がなくても支払わなければいけません。印紙税は、収入印紙を購入し、契約書に貼り付けるだけで問題ありません。収入印紙は郵便局などで購入することができます。
なお、印紙税を支払う人は決められていません。売り主が支払うこともありますし、仲介業者が負担してくれる場合もあります。印紙税の税額は以下のとおりです。
契約書に記載されている金額 | 印紙税 |
500万円以下のもの | 1,000円 |
1,000万円以下のもの | 5,000円 |
5,000万円以下のもの | 10,000円 |
1億円以下のもの | 30,000円 |
5億円以下のもの | 60,000円 |
10億円以下のもの | 160,000円 |
50億円以下のもの | 320,000円 |
50億円を超えるもの | 480,000円 |
仲介手数料
共同持分不動産の売却を、不動産会社に依頼した際にかかる手数料です。共有者間などで、不動産会社を介さずに共有持分不動産を売買した場合には発生しません。仲介手数料は、不動産会社によって異なりますが、宅地建物取引業法では以下のように上限が定められています。
売買価格 | 仲介手数料 |
200万円以下 | 売買価格の5%+消費税(10%) |
200万円超、400万円以下 | 売買価格の4%+2万円+消費税(10%) |
400万円超 | 売買価格の3%+6万円+消費税(10%) |
仲介業者によっては割引してくれるところもあります。具体的な仲介手数料は、仲介業者に問い合わせるか、契約書を確認しましょう。
共有持分不動産を共有名義のままにしておくとどうなるか
共有持分不動産の共有名義を持っているけれども、今すぐに何かをする必要もないという状況も一般的によくあることです。そのような場合には、共有持分不動産の共有名義をそのまま放置しておくことになりがちですが、そのような場合にどのような問題があるのでしょうか。それらについて見ていきたいと思います。
持分権者全員の同意を得ないと共有持分不動産全体を売却ができない
不動産の売却は「変更(処分)行為」にあたるため、共有持分不動産の共有者全員の合意が必要です。共有持分不動産の共有者自身だけであればまだしも、その配偶者などが口を挟んでくるようなこともあります。共有持分不動産の共有者の1人が「そこに住みたい」と言い出すなど、時間が経てば経つほど互いの意見が食い違い、共有持分不動産の共有者間の話し合いが難航する可能性が高くなります。
ときに売却やローンの一括返済の可能性がある
担保の設定やローンも、不動産の売却の場合と同様に「変更(処分)行為」に該当します。銀行からお金を借りたいときには、不動産を担保として提供する(抵当権を設定する)ことが想定されます。抵当権設定に係る登記手続きにおいて、その不動産全体への抵当権設定であれば、やはり共有者全員の同意が必要です。
また、逆に共有持分不動産を取得する際に、その購入代金のために銀行でローンを設定した場合、共有持分不動産の売却した場合はローンを一括返済するという条件になっていることがあります。そのようなローンを組んでいた場合には、共有持分不動産の売却をすると、ローンを一括返済しなければならないという状況に追い込まれてしまいます。
このような場合、夫婦で共有持分不動産を購入してローンを組んでいた場合、財産分与のために共有持分不動産を売却すると、ローンも一括返済しなければならなくなるということになってしまいます。
相続によって持分がさらに細分化される可能性がある
共有持分不動産の共有持分を長年放置していると、さらなる共有持分の細分化という問題が発生する可能性があります。
例えば、共有持分不動産の土地を2分の1ずつ共有している場合に、共有者の一方がお亡くなりになって相続が開始した場合には、共有持分がお亡くなりになった相続人の数だけ細分化することとなります。
すると、当該共有持分不動産の土地の共有者が増えてしまい、法律関係が著しく複雑になってしまうという可能性があります。
共有持分不動産の共有者が増えると複数の利害関係人が登場し、共有持分不動産の土地を売却したいときや活用したいときに全員の意見がまとまらないという問題は度々発生します。
ふたつ目として、遺産分割などを行うことが困難になるということがあります。共有持分不動産の共有関係を解消して単独所有とするためには、当該共有持分不動産の共有者全員で遺産分割協議(あるいは共有物分割協議)などを行う必要があります。
しかし、共有持分不動産の共有関係が複雑化した場合には、協議に非協力的な持分所有者が出てくる可能性があります。特に、共有持分不動産の土地の相続に際して、故人の前配偶者の子息などの関係者が共有持分権を相続した場合などには、当該持分所有者との意思疎通が困難になる場合もあります。
このような問題を避けるためには、共有持分不動産の共有関係は可能な限り早いうちに解消することや遺言書を作成することにより将来問題が生じないように対処をしておくなどが重要となります。
よく相続人間で平等にしたいからといって、法定相続分割合で分割し、不動産も同じ割合で共有持分不動産とするケースがありますが、このような遺産分割は避けたほうがいいでしょう。
仮に相続時点では相続人の仲がよく円満であっても、子供の内の誰かが亡くなり、次に相続人となった人と他の共有持分者が引き続き仲が良い関係が続くという保証はないためです。遺産分割の時点から先の相続まで見据えて分割方法を考えることが大切です。
贈与税を払わなければならないリスクがある
共同持分不動産に関して、共有状態を解消しようとして次のような対応を取った場合に、適切に行わなければ、贈与税を支払わなければならなくなるリスクがあります。
共同持分不動産の共有持分を変更したとき
例えば、AさんとBさんの共有名義になっている共有持分不動産の土地の持分を無償で変更した場合、価値が増加した部分は贈与になります。すなわち、BさんがAさんに何も支払うことなしに、すべて共有持分不動産をAさんの単独名義に変更した場合、BさんからAさんにBさんの持分の贈与が為されたと判断されます。
共有持分不動産の土地の分筆をしたとき
共有持分不動産の土地を分筆した場合(いくつかの土地に分けて登記すること)、分筆後の土地の価値の割合が共有持分の割合と異なるときは贈与になります。
同じく古いアパートを相続した事例を紹介しましょう。こちらは他者への売却ではなく、共有者間で持分を売買するパターンです。
「父が遺してくれたアパートを兄の私が3分の2、妹が3分の1を共有持分不動産の共有持分として相続し、これまで私が管理してきました。現在、建物の老朽化が進んできたので、金融機関から融資を受けて建て替えを検討しています。
ただ気掛かりなのは、本物件を担保に入れることになるので、持分のある妹に承諾を得て、形式上ですが借金の一部を背負ってもらうかたちになることです。
妹に迷惑を掛けることはないとは思いますが、万が一のリスクも考えられますし、いつまでも私たちの関係が良好とも限りませんから、この機会に共有関係を解消し、当該共有持分不動産を私だけの名義に変えたいと考えています。
妹の共有持分不動産の共有持分を相場よりも安く買い取ろうと考えていますが、何か問題が生じるのでしょうか」
この問題では、相談者さんが妹さんの共有持分を買うわけですが、知った仲だからといって安値での取引は危険です。
これまでにも何度か説明してきたように、破格の安値だと妹さんからの贈与と見なされ、贈与税がかかってしまう可能性が高いからです。適正な時価での売買を行わないといけません。
そこでこの物件の3分の1に当たる適正な価格で、相談者さんが妹さんの共有持分を買い取ることになるわけです。しかし、さらにこれに加えて、登記の変更のための費用などもかかってくることになります。
共有持分不動産の売却時の注意点・トラブル
共有持分不動産の売却については、さまざまなトラブルが起こることがあります。それらのトラブルについて、典型的な場合とその対処方法について説明しようと思います。
共有持分を売却されたときの対応
他の共有持分権者に共有持分不動産の共有持分を売却された場合、その共有持分不動産に関する家賃請求や共有物分割請求など、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。
また、話がこじれると、裁判になってしまう恐れもあるでしょう。そのため、勝手に共有持分を売却されたとき、他の共有者は自分の希望にあわせて最適な対処を取る必要があります。
具体的には次の3つが対処方法として考えられるため、それぞれ詳しく解説していきます。
面倒事を避けたいなら当該共有持分不動産の自分の共有持分を売却する
「とにかく面倒事を避けたい」という場合は、当該共有持分不動産の自分の共有持分も売却してしまうことをおすすめします。
そもそも、共有持分不動産の共有持分は権利関係が複雑になりやすく、資産としては非常にトラブルが起こりやすいものです。トラブルに巻き込まれると手間は当然かかりますし、解決には費用も必要です。
仮にトラブルが起こっていなくても、管理に共有持分不動産の共有者同士の話し合いが必要であったり、得られる利益が少ないのに維持費の義務があったりするなど、共有持分不動産の共有持分を継続して所有することはデメリットが多いといえるでしょう。
また、共有持分不動産の共有持分のままでもっているより、売却して現金に替えたほうが有効活用できることがほとんどです。
ただし、共有持分不動産の共有持分を売却するときは、どこに売却するかを慎重に考えましょう。一般的に安くなりがちな共有持分不動産の共有持分ですが、高額買取が可能な場合もあるので、まずは査定をしてもらいましょう。
共有持分不動産の共有持分の買取業者へは、すぐに売却できるのが魅力ですが、悪質な業者だと安く買い叩かれたり、トラブルを起こしたりする恐れがあります。
しかし、買取業者の良し悪しを見極めるのは、不動産の専門家でもない限りむずかしいでしょう。
そこで、不動産知識に不安があっても安心して相談できるのが「弁護士と連携した専門買取業者」です。
弁護士と連携することで、権利関係が複雑な共有持分不動産の共有持分でも、高額かつスムーズな買取が可能になります。
また、離婚や相続などでトラブルが起こっている共有持分不動産でも、法律面から解決に導く総合的なサポートが可能です。
共有持分不動産を維持したいなら売却された共有持分を自分で買い戻す
当該共有持分不動産を維持したい場合は、売却された共有持分不動産の共有持分を自分で買い戻すとよいでしょう。
共有名義である以上、共有物分割請求を起こされるなど、トラブルの可能性は防げません。
自分が共有持分を買い取って単独名義にするのが合理的といえますし、確実に当該不動産を維持できる方法です。
売却された共有持分不動産の共有持分を自分で買い戻す場合、足元を見られて高値で売りつけられないよう、事前に価格相場を調査しておきましょう。
また、共有持分不動産の共有持分を買い戻したくても、手元に資金がないという場合もあると思います。そのような場合、資金を借り入れて買い戻すことになるでしょう。
共有持分の追加取得でローンを借り入れた場合、その借入金も住宅ローンの対象となるので、忘れずに税務署で申告しておきましょう。ただし、金融機関によっては「共有持分の追加取得」を目的とした住宅ローンの借入ができない場合もあります。その場合は、住宅ローンの借り換えを利用するなど、工夫が必要になります。
共有持分不動産の共有物分割請求をされた場合は弁護士へ相談する
当該共有持分不動産の共有持分を買い取った第三者から共有物分割請求を起こされた場合、交渉や各種手続きには法律の知識が求められるため、自分1人で対応するのは難しいでしょう。
そのため、このような場合には、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士なら、協議や訴訟において「有利な条件での分割」を交渉してくれます。
共有を避ける方法
これまで見てきた通り、共有持分不動産の共有状態というのは、後々非常に複雑な法律関係になってしまったり、相続によって細分化されてしまったりするなど、問題やトラブルが起こる原因となる可能性が高くなります。
では、このような共有持分不動産の共有状態を避けるために取るべき方法はどのようなものが考えられるのでしょうか?いくつかの共有状態を回避する場合を見てみようと思います。
遺産分割時に共有状態にしない
遺産分割協議によって誰かの単独所有とする
相続で物件が共有状態となってしまうような場合には、遺産分割協議によって誰かの単独所有とすることが適切な方法です。遺産分割協議によって誰かの単独所有とする方法は、不動産を共有者間で売買せずに単独所有にできるというメリットがありますが、遺産分割協議を成立させなければいけないというデメリットがあります。
遺産分割協議とは、相続後に相続人同士で遺産の分割方法を決める話し合いのことです。遺産分割協議には期限の定めがないため、相続後、いつでも行うことができます。遺産分割協議では法定相続分と異なる割合で遺産を分割することができるため、売買や贈与を伴わず不動産を誰かの単独所有とすることができます。
遺産分割協議では、最終的に遺産分割協議書という書面を作成します。
遺産分割協議を成立させるには相続人全員の同意を要し、遺産分割協議書には相続人全員が署名と押印をすることが必要です。
遺産分割協議書は、遺産分割によって不動産の名義変更を行う場合の必要書類となります。
形式的な要件を満たす必要があることから、司法書士等の専門家に作成してもらうことが一般的です。
他の共有者が共有持分不動産の共有持分を買い取る
共有持分不動産の共有状態を解消するには、他の共有持分不動産の共有者がその共有持分を買い取るという方法もあります。遺産分割協議が成立しない場合には、相続人の誰かが共有持分を現金で買い取ることで公平に遺産を分割することが可能です。
共有持分不動産の共有持分を他の共有者が買い取る方法では、不動産を売却せずに済むというメリットはありますが、買い取る共有者の経済的な負担が大きいというデメリットがあります。
共有者同士で共有持分不動産の共有持分を売買する場合、問題となるのが価格です。
売買を成立させるには、売主も買主も双方価格に納得する必要があります。妥当な価格を知りたい場合、不動産鑑定士による有料の鑑定評価を取得します。
不動産鑑定士とは不動産の適正な価格を算出することができる国家資格者です。
専門的な第三者の立場として共有持分の資産価値を出してくれますので、親族間の売買や関係会社間の取引等、第三者への売却以外の売買でも利用されます。
適正な価格を出す方法として、不動産会社による無料査定もありますが、無料査定はあくまでも第三者への売却によって不動産会社が仲介手数料を得ることを前提に行われます。
共有者間の売買では、不動産会社の仲介を介さないことが一般的ですので、仲介手数料を得られない売買では不動産会社は無料査定を行ってくれないのが通常です。
そのため、共有者同士の売買で適正な価格を知りたい場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を取得することになります。
共有持分不動産全体を売却する
共有状態を解消するには、共有持分不動産全体を売却するという方法もあります。
共有持分不動産全体を売却する方法では、共有持分不動産の売却で得た現金を平等に分けることができるというメリットがありますが、共有持分不動産を手放さなければならないという点がデメリットです。
共有持分不動産全体の売却であれば、共有持分不動産の他の共有者が買い取る方法のように買い取る人に大きな経済的な負担が発生しないことから、無理なく共有持分不動産の共有状態を解消しやくなります。
ただし、共有持分不動産全体の売却では共有持分不動産の共有者全員の同意が必要です。
共有持分不動産全体の売却であれば、第三者への売却ですので不動産会社による無料査定を利用することができます。
共有物全体の売却では、売却価格も全員が納得する必要があるため、あらかじめ複数の不動産会社による査定結果を比較検討すると納得感を得やすくなります。
共有持分不動産全体での売却は、共有持分不動産買取業者に低廉な価格で売却するよりも価格面ではお得ですし、共有持分不動産の他の共有者との関係も悪化させず穏便に共有持分不動産の共有状態を解消できます。
共有状態を解消する場合は、共有持分不動産の共有持分の買取を利用する前に、必ず共有持分不動産全体の売却を検討するようにしてください。
早めに共有分割しておく
なお、共有名義の共有持分不動産が土地だった場合には「分筆」という裏技があります。
「分筆(分筆登記)」は、登記簿で一つとされている土地を2つに分ける方法です。
分筆をすると、共有持分不動産の共有名義とは違い、単独名義の不動産が分筆した数だけ存在することになります。
分筆によってそれぞれの土地が「単独所有」となるため、分筆が完了した後は、その所有している土地は、ほかの所有者の同意なく自由に売却できるようになります。
共有名義の共有持分不動産を分筆する場合、その共有持分割合に応じて分筆しますが、当該共有持分不動産のどの範囲を誰が所有するかは話し合って決める必要があります。
共有持分不動産の共有持分権者全員で分筆案に関する合意が成立すれば、新しく境界確定をおこない、現地には境界の目印を設置することになります。分筆をおこなうための手順は次の通りです。
分筆した土地の正確な面積を割り出す必要があるため、土地家屋調査士へ依頼します。地積測量図作成の費用は50万円程度です。次に、土地家屋調査士へ依頼して、法務局で土地の変更登記の手続きをします。費用は5万円ほどです。
土地の変更登記が完了した後、単独所有にするための所有権移転登記をおこないます。司法書士に依頼するために5万円ほどの費用がかかります。
このように共有持分不動産の分筆には、手間とお金がかかります。しかし、共有持分不動産の分筆が済んだ段階では、分筆したすべての不動産が単独所有となっている状態にすることが出来ます。
まとめ
共有持分不動産の共有持分は、自分の共有持分だけなら単独で売却が可能です。
しかしながら、共有持分不動産の共有持分の売却では、「勝手に売却すると他の共有持分不動産の共有者と禍根が残る」、「当該共有持分不動産の共有物分割請求をされてしまう」といったトラブルがよくあるので、安易に共有持分不動産の買取業者に買い取ってもらうのは、あまりおススメできません。
共有持分不動産の共有持分で買取を使わない方法としては、「他の共有者が当該共有持分不動産の共有持分買い取る」、「当該共有持分不動産全体を売却する」といった方法がありますので、まず検討してみるのが良いと思われます。
共有持分不動産の共有持分の買取は、トラブルのリスクも十分に考慮した上で、利用すべきかどうかを判断しましょう。
共有名義の共有持分不動産を売却するにはいくつかの方法がありますが、可能であれば、共有持分権者全員の同意を得て共有持分不動産を売却するのが、売却価格としても、共有持分不動産の有効活用の意味でもベストと言えるでしょう。
共有持分不動産の共有持分権者全員で話し合いをしても、意見の食い違いや活用方法に対する価値観の相違といったことで平行線をたどったまま、納得の売却活動に至らないケースも少なくありません。
全員が納得できる価格で売却するためにも、ケースに応じた適切な方法で共有持分不動産の売却活動を進めるのが重要です。