共有物分割請求手続きの流れ!
近年はモノやサービスを一人で所有せず、他人とシェアすることが流行っています。
この場合のシェアは「共有」という意味ですが、不動産を他人と共有することも法律上は可能です。
しかし、不動産の共有は多くの問題をはらみ、時にトラブルに発展することもあります。
大変多くの方が不動産の共有問題でお困りですので、本章では【共有物分割請求】を軸に、共有不動産にかかる問題の解決法をお伝えします。
共有持分は持分売却ができます。
不動産を共有するということは、複数人で当該不動産を共同所有するということです。
共有者はそれぞれ、当該不動産にかかる「持分」の権利を取得します。
例えばA、B、Cの三人で軽井沢の別荘を共有したとしましょう。
持分はそれぞれ三分の一ずつです。
皆が仲良く別荘をシェアして使っている分には問題ありませんが、例えばAが、シーズンオフの時期には別の人に貸し出して利益を出そうと提案したとしましょう。
しかしBとCはシーズオフでも自分で利用する予定のため、これに反対します。
Aは自分が使えないシーズンオフの時期にも無駄に保有することになるので面白くありません。
別荘を他人に貸し出すことは、利用の仕方を変更することになるので、持分の過半数の同意がなければ実行できません。
別荘の利用の仕方で言い争いになり、Aは他の二人と疎遠になってしまいました。
加えてAはその後病気になり、別荘を使用することができなくなったので、持分は宝の持ち腐れとなってしまいます。
別荘を売りたいと考えても、売却処分は共有者全員の合意がなければならないので無理です。
このような時、Aはどうしたらいいのでしょうか。
持分は財産的価値のある権利ですので、売ることができます。
自分がもう使わない持分は持っていても仕方がないので、BかCに買い取ってもらうことも考えられます。
このケースのように、他の共有持分権者との仲が悪い等の事情があり交渉したくなければ、市場で持分を売ることも可能です。
不動産業者の中には持分の買い取りをしているところもあります。
こうした業者に持分の買取を依頼することができますが、実はこの売り方ではかなり損をしてしまうことになるのです。
共有持分を不動産業者に売却したら2-3割にしかなりません。全部を取り纏めて売却しましょう。
不動産業者が扱う取引はいくつかの種別があります。
不動産を売りたい人と買いたい人を引き合わせて売買を仲介する形態の他、売却を望む売り主から対象不動産を直接買い取る「直接買取」という形態もあります。
物件まるごとの直接買取の場合、不動産業者はそれぞれ得意分野で利活用を図り利益を出します。
例えば大がかりなリフォームを施して綺麗な賃貸物件に生まれ変わらせたり、建物を解体して更地にし土地開発を行うなど、業者によって様々です。
直接買取の場合、買い取った後の整備や開発に費用がかかるため、市場相場よりも二割~三割程度安くしなければ買い取ってもらえません。
不動産業者側の利益を考えれば仕方のないことでしょう。
そして、少数ですが不動産を丸ごとでなく、持分を買取対象にしている業者もいます。
ただし、この場合は買取時の値下げ幅が二割~三割どころではなくなります。
本来の市場価値の半額、あるいは八割程度も値引かれてしまうこともざらにあります。
なぜかというと、持分を買っただけは、他の持分権者の存在があるため、不動産業者の自由に利活用したり、必要に応じて売却、換価したりすることができないからです。
もし他の権利者の持分を買い取るとしても、同意が得られなければ裁判などで費用がかさむことになります。
こうした諸々を考慮すると、持分については買い取りに応じてくれたとしても、相当買いたたかれる結果になってしまいます。
市場で持分を売ろうとすると、このように大損覚悟で臨まなければなりませんが、これよりも有利に事を進める術があります。
民法には、勝手があまり良くない共有状態を解消するために、他の共有者に対して「共有物の分割請求」ができると定められています。
分割の請求についての具体的な方策は後述しますが、ここで大切なことは、共有者の誰か一人が「共有状態を脱したい」と思った時、法律上もしっかりとその道が開かれているということです。
民法256条には、共有者は、いつでも他の共有者に対して分割の請求ができる(ただし5年以内の分割禁止特約は可能)旨の定めがあります。
また同法258条には、共有者同士の話し合いの調整が難しいときには、裁判所に分割の請求ができる旨の定めがあります。
原則は当事者同士の話し合いにより、現実に即した柔軟な交渉で問題解決を目指しますが、それが上手くいかない時には、裁判所に合理的な分割方法を決めてもらえるという救済手段があるということです。
弁護士による共有持分の売却(共有不動産の全部を取り纏めて売却)の流れ
この項では、不動産の共有状態を脱するための手順について、流れの全体像を確認します。
全体を俯瞰すると以下のような流れで事件の処理が進行していきます。
事件全体の掌握と処理方策の検討
弁護士は、対象不動産の性質や現在の状況、そして依頼者の希望を丁寧にヒアリングし、どのような解決方法が最も有効かを考え、共有物の分割方針を決定します。
他の共有者の協力が得られそうであれば、その協力を取り付けるためにどのようなアプローチが有効かを考えます。
お金で解決できそうか、あるいはお金以外のメリットを提供するのが有効かなど、個別ケースで有効策は異なりますので、事件ごとの性質に鑑み、アプローチを検討することになります。
もし他の共有者の協力が得られそうにない場合は、裁判を見据えてどのような判決が出そうか見通しを行い、その結果不動産の扱いがどうなるか、依頼者の権利への影響などを予想します。
不動産がどうなるかの結末の予想だけでなく、税務処理がどうなるかなども予想して依頼者と一緒に検討していきます。
任意交渉
まずは、可能な範囲で他の共有者と任意交渉に臨みます。
交渉は書面の送付や面談などで進められますが、依頼者が望む分割方法をただ単に伝えるだけは交渉がスムーズに進展しません。
自方で示す分割方法の合理性や相手方権利者のメリットなども上手く説明し、相手方が納得しやすいように配慮しながら進めます。
利害が対立する当事者だけでの交渉はどうしても感情や損得が絡んでスムーズにいきませんが、弁護士が間に入ることで客観的に物事を伝えることができます。
相手方も法律の専門家による説明を受けることで納得しやすくなるので、事件の円満な解決につながります。
訴訟の提起
任意による交渉で話がまとまらなかった場合は、共有物分割請求訴訟の提起を行います。
裁判では、裁判官に対して依頼者が望む分割方法の合理性を訴えていくことになりますから、当事者同士よりもさらに理論的な説明が求められます。
裁判による分割請求というのは、他の多くの裁判のように単純に「勝った負けた」で勝敗を分けるものとは性質が違います。
当該事件で扱われる共有状態の不動産をどのように処理するのが合理的か、という視点で裁判官に判断を仰ぎ、妥当な方法を提示してください、とお願いするのが当訴訟の性質になります。
裁判上では、裁判官の判決が出る前に当事者間で和解することもあります。
分割の実行
任意交渉、裁判上の和解もしくは判決により共有不動産の分割方法が決定したら、これを実現させるために実務手続きを行います。
必要に応じて土地を分筆したり、登記手続きを取るなどして権利関係を確定させます。
権利移転のためにお金のやり取りが必要になれば、この作業も並行して行います。
裁判上で競売の判決が出た場合は競売の申立てを行うことになります。
まずは他の共有者から共有持分を買い取る。他の所有者に買い取らせる。共同売却も。
ではさらに踏み込んで、共有物分割のための具体的な実務について見ていきます。
他の共有者の持分を買い取る
対象不動産にかかる他の権利者の持分をお金で買い取ることができれば、単独で不動産の所有権を手に入れることができます。
完全な単独所有とすることで、以後は自由利用が可能になります。
共有持分については、少なくとも過半数の持分が無ければ民法上の管理行為ができないので、自分で不動産の利活用方法を柔軟に変更することもできません。
また売却などの処分は共有者全員の合意がなければ実行することができません。
持分割合が少ない権利者の場合は、元々この点で旨みが少ないので、持分の買い取りに応じてもらいやすくなります。
他の権利者に自分の持分を買い取ってもらう
逆に自分の持分を他の共有者に買い取ってもらうことも検討できます。
任意交渉で相手が買い取りに応じてくれれば、両者がwin-winの関係になります。
しかし相手が買い取りを望まないこともあります。
裁判では、望まない者に対して強制的に他の共有者の持分を購入させるという判決を下すことはできないルールになっているため、強制的に持分を買い取らせることはできません。
そこで、裁判上はあくまで競売を命じる判決を求めていきます。
もし相手がその不動産を失いたくないというのであれば、持分の買い取りに応じて競売を回避しなければなりません。
例えば相手が対象不動産に今現在住んでいて、その家を失いたくないという思いが強ければ、和解に応じて持分の買い取りに応じてくれるでしょう。
全員の合意の元で共同で売却する
共有者全員が対象不動産を売却して換価することに抵抗が無いケースでは、全員の合意の元で共同売却するということも考えられます。
売却することに対して全員の抵抗が無いのであれば、換価処分を行ってその対価を持分に従って分ければ公平性が保てます。
ただ、共同売却は細かい点で当事者間の思惑にずれが生じ、上手くいかないことも多いです。
例えば一定額以上でなければ売りたくないとか、懇意にしている知り合いの不動産業者を通してでなければ売却に合意しないなど、個々人の思惑が交錯して共同売却がスムーズにいかないケースもあります。
このような共有者への対処方法としては、「話がまとまらなければ裁判で競売を求める」という立場を主張して、面倒を避けたいという相手方の心理に訴えるのも有効です。
共有者が死亡していたり、行方不明の場合は?
共有者が死亡している場合は、権利を相続して引き継いだ相続人が交渉相手となります。
共有者が死亡していた場合は実務的に面倒になることが多く、手続きに多少時間がかかることがあります。
不動産の権利者は登記で判明しますが、相続登記をしないケースも多く、その場合は相続人の調査に時間がかかります。
戸籍等の調査を行い相続人が判明したら、当該相続人に対して任意交渉をかけるなり、訴訟を提起するなりします。
共有者が行方不明の場合は、住民票から住所を調査して行方を追跡していきます。
所在が分かればいいのですが、もし所在が判明しない場合、公示送達の方法を取ります。
これは、連絡があれば訴状など必要書類をいつでも送付する旨を一定期間裁判所に掲示して、その期間に相手から連絡が無い場合は、こちらの意思が相手方に到達したものとみなしてしまう制度です。
相手が行方不明の場合、裁判の手続きに必要な書類の送付ができないので、公示送達の手段によって法律上意思を相手方に到達させたことにします。
これによって、相手の所在が不明でも裁判手続きを強制的に進めることができます。
最後は共有物分割請求訴訟で確実に売却(共有不動産の全部を取り纏めて売却)できる。
世の中には多くの問題やトラブルが存在しますが、我が国では当事者同士で解決できない問題は最終的に裁判で決着をつけることができます。
共有物の分割にかかる問題も、最終的には裁判で決着を図ることができるようになっており、そのための裁判が「共有物分割請求訴訟」です。
裁判で図る結着方法は必ずしも共有者全員が完全に満足するものとは限りませんが、当事者以外の第三者である裁判官が決定することですので、それは仕方がありません。
共有物分割請求訴訟では、次のような手段を用いた解決方法を裁判所が命じます。
現物分割
現物を分割して、それぞれを単独所有とする方法です。
例えば土地であれば分筆をすることで、一つの土地を複数に分けることができます。
分筆後のそれぞれの土地を、各権利者が単独所有とすることで、共有状態を脱することになります。
価額賠償
現物分割をした際の持分の過不足については、金銭を用いた価額賠償によって調整することができます。
金銭を用いた処理でも「全面的価額賠償」という方法もあり、これは複数共有者のうち誰か特定の者に所有権を集中させて、単独所有権を得た者が他の共有者に対して賠償金を支払い解決する方法です。
全面的価額賠償は例外的位置づけのため、現物分割によって対象不動産の価値が著しく損なわれるなどの事情がある場合に、一定の条件の元で認められるものです。
共有者間の実質的な公平性を失うような事情がある場合には、全面的価額賠償は認められません。
代金分割(競売)
対象不動産を売却して、換価処分したうえで代金を取り分けます。
いわゆる競売を命じるもので、他の手段では解決ができない事案で最終的な解決方法として判決がなされます。
競売は一般的に市場価格よりも相当安くなってしまうイメージがありますが、実際には誰かが今現在住んでいるような物件であっても、立ち退きにかかる実務がしっかり整えられているので、売却価格にはそれほど影響しません。
裁判では以上のような解決手段が判決として命じられますが、注意が必要な点として、共有不動産の処理について、いきなり裁判に訴えるということはできません。
裁判の前には必ず共有物の分割について、当事者同士で話し合わなければなりません。
当事者同士による話し合いが上手くいかない場合に限り、裁判所の手を借りることができというルールになっています。
実務上は、裁判提起前に当事者で解決を目指したことを証明するために、相手方に内容証明郵便を送付することも行われます。
そうすることで「話し合いなどしていない」と相手方に主張されることを回避できます。
共有者が複数いて、争っている相手と争いが無い相手がいる場合、争いが無い相手には裁判にすることを事前に通知しておくと、関係悪化を防ぐことができます。
ケースにもよりますが、裁判所が当事者の主張を聞き、分割方法の決定がなされるまでには半年~1年程度の期間を要します。
ただその間に和解ができるようであれば、裁判所の判決を待たずに事件の解決を図ることができます。
裁判の提起は、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所、もしくは被告となる者の住所地を管轄する地方裁判所に対して行います。