共有物分割が権利濫用として認められないケースとは?!

共同購入や相続などによって、家や土地などの不動産を夫婦や親子、兄弟などで共有している状態になるというのは、一般的によくあることです。

それぞれの人間関係が良いときには、その不動産の所有などについて、争いが起こることはありませんが、共有している人たちの人間関係が悪化すると、共有不動産を清算して、早く共有関係から離脱したいという話が出てくることがあります。

そのような場合に、どのような状況であっても、共有不動産の自己の持分について主張をして清算を求めることは、基本的に認められるのでしょうか?それとも、その主張をすることが認められないような場合があるのでしょうか?また、認められないとすれば、それはどのような場合でしょうか?

今回は、共有物分割が権利濫用として認められないケースはどのような場合なのかについて、徹底的に解説します。

⇒共有不動産トラブルでお困りの方はこちら!

共有分割請求権とは

共有物分割請求とは、不動産を共有する人の一人がその共有状態を解消するために、他の共有者に対して共有不動産の分割やその持分相当の対価の請求をしたり、その協議が整わない場合には、裁判所に訴訟を提起したりすることを言います。

共有物分割請求する理由には、次のようなものが考えられます。

  • 自己の生活に困窮しているので、共有不動産の持分権を売却して金銭を受け取りたい
  • 他の共有者との人間関係が悪いので、不動産の共有状態を解消して関係を清算してしまいたい

このような状況になると、不動産の共有状態を解消したいという人が出てくることがあります。

共有物分割請求訴訟

共有物分割請求訴訟とは、共有関係の解消を求めて裁判を起こすことを言います。不動産の共有状態の解消をしたい場合には、通常、まず、他の共有者とその解消について話し合うことになります。しかし、いくら話し合っても、合意ができず、話がつかないこともあります。そのような場合には、裁判に分割の請求をすることができます。

例えば、兄弟のAさんとBさんが親の遺産である家を共有していたとします。Aさんは生活に困っており、この家を売ってお金が欲しい。一方のBさんは親の大事な遺産なので、売却したくはない。このような場合に、お互いに自分の主張を譲らなければ、いつまで経っても、問題は解決しません。Aさんの立場からすると、生活に困っているのに、いつまで経ってもお金をもらうことができません。そのような場合には、Aさんは裁判所に対して共有物分割請求訴訟を起こすことができます。

民法第258条第1項では、「共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる」と規定されています。

しかし、規定にもあるとおり、いきなり訴訟を起こすことはできません。「協議が整わないときは」とあることから、まず、共有者間で協議をすることが必要です。協議をしても合意できないときには、その分割を裁判所に請求することができます。このように、前提として訴訟を提起する前には協議を尽くす必要があります。

では、他の共有者が協議に応じない場合などはどうでしょうか?他の共有者が協議に応じなければ、協議をしたくてもできません。しかし、これまでの判例などでは、次のような場合は、訴訟を起こすことができるとされています。

  • 協議をしたけれども、合意できなかった
  • 協議を申し入れたけれども、他の共有者が応じなかった
  • 協議をして合意したけれども、いつまで経っても実行されない

このように、実際には、一度も協議がなされないまま、訴訟を提起することができる場合もあります。ただ、いずれの場合も訴訟を提起する前に、協議をするための努力をする必要はあると言えます。

共有分割請求のタイミング

民法第256条第1項によれば、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない」となっています。

よって、共有持分権者はいつでも不動産の共有権の分割を請求することができます。ただし、当事者が合意すれば、5年を超えない期間内は分割しない旨の契約を結ぶことができます。その場合には、その期間は分割をすることはできません。

しかし、最大で5年間しか分割しない旨の契約をすることができないのは、法律上、基本的には、共有状態というのは、好ましくないという考えが背景にはあるようです。ですから、共有持分権者は、分割しない旨の契約がなければ、いつでも共有不動産の分割を請求することができるのです。

権利濫用とは

一般的に民法では、権利の濫用とされるような権利の主張は認められていません。民法第1条第3項には、「権利の濫用はこれを許さない」とされており、たとえ、正当な権利があったとしても、濫用とされるような主張を行うことは、認められていないのです。

では、どのような行為が権利の濫用となるのでしょうか?

権利の濫用というのは、「正当な権利を持っている者であっても、その権利を行使することが、他者に多大な損害を与える、あるいは社会的概念から逸脱していると判断される場合は、権利の行使が許されない」ということとされています。

権利の行使が明らかに加害の意思や目的をもってなされた場合には権利濫用の成立が認められやすいです。しかし、一般的には、権利濫用となるか否かの基準としては、権利行使によって生じる行使した者の利益とその相手方の利益や、その権利の社会的な意義や目的など様々な要素を比較衡量して決めるということになることが多いです。

また、その判断によって、権利濫用を行った者が逆に損害賠償を命じられたり、権利を失ったりすることもあります。権利の濫用の判断は最終的には、司法(裁判所)が行うため、ケースバイケースとなるのが実状です。

たとえば、Aさんは甲土地の所有権を有しており、隣家に住むBさんに対する嫌がらせの目的で、自分にとっては何の利益もない高い塀を作ることによってBさんの家に日光が射さないようにした場合、外見上はAさんが自身の土地所有権をもとに塀を作っただけですが、正当な範囲を逸脱した権利の行使としてBさんに対して損害賠償義務を負うことがあります。このように、いくら権利を有しているとはいえ、その権利をみだりに行使することは禁止されています。

共有分割請求権の権利濫用となる場合

では次に、共有分割請求権における権利の濫用となる場合はどのような場合でしょうか?
過去の判例を見てみると、同じような状況であっても共有分割請求権の行使が権利の濫用にあたると認められているものとそうでないものがあります。

その理由は、前述したとおり、その事例の状況がケースバイケースだからです。外観的な状況は同じであっても、例えば、不動産の価値は常に変化しますし、立地条件などによっても大きく異なります。また、建物と土地についての共有者の共有持分割合も、それぞれのケースによって違うのが通常です。

さらに不動産が共有になった経緯が相続なのか共同購入なのか、遺産分割協議書や遺言書の有無なども裁判所の判断に大きく関わってきます。このようにそれぞれのケースで状況がさまざまなので、共有物分割請求訴訟においても、権利濫用が確実に認められるという状況は存在しません。

そもそも、前述のとおり、権利濫用という規定自体が、正当な権利を持っているものの権利行使を、それを認めることが不当なほどの理由がある場合に、その行使を認めないというものですので、それぞれの事例の状況に応じて裁判所が判断することになります。

したがって、「共有分割が権利濫用になると確実に言える条件というのは存在しない」というのが正しい理解になります。あくまで、権利濫用となるか否かの基準としては、権利行使によって生じる行使した者の利益とその相手方の共有者の利益や、社会的な意義、目的など様々な要素を比較衡量して決めるということになります。

よって、共有分割請求権の行使が権利濫用となるか否かは、請求する側の事情と請求される側のそれぞれの事情やそれに至った経緯などを比較衡量して、裁判所が総合的に個々に判断することになります。

とはいえ、これまでに裁判で争われた事例から、共有分割請求権の行使が権利濫用とされる可能性が高い状況というのは、ある程度推測できますから、次に具体的な共有分割請求の事例を見ていきたいと思います。

⇒共有不動産トラブルでお困りの方はこちら!

具体的な例

十分な資力のある別居中の夫が妻に対して共有物分割請求権の主張をした場合

訴えの概要

土地と建物を共有していた別居中の夫婦の夫が妻に対して共有物分割請求訴訟を起こした事例です。夫は別居して共有している不動産以外のところに住んでおり、妻は子供とともに共有不動産に住んでいました。夫は妻と子供が住んでいる共有不動産の分割請求を求めて裁判を提起しました。

裁判の結果

夫は、代償分割による自己の持分相当の金銭の要求もしましたが、妻にはそれに応じる経済力はありませんでした。だからと言って、訴訟により競売が認められると、妻と子供は住む場所を失うことになってしまいます。一方で、訴訟を提起した夫は、代償分割や競売によって金銭を得なくても十分に生活をしていく資力がありました。
このような状況で、裁判所は、夫の共有物分割請求権の行使は、権利濫用にあたるとして、夫の請求は棄却される結果となりました。

権利濫用の判断基準

この裁判の場合、夫の訴えが通って、共有不動産が競売された場合、妻と子供の住む場所がなくなってしまうということ、夫には共有不動産の持分の金銭を受領しなくても十分生活していく資力があるということなどの事情を比較衡量して、夫の請求は権利の濫用にあたると判断されました。

また、子供が病気を患っていて、妻が看病で十分に働けないことや、夫が十分な生活費を妻子に渡していなかったことなども論点となりました。これらの状況も考慮されて、夫の請求が権利濫用にあたると判断されたものと思われます。

十分な資力のない息子が母親と共有しているマンションの共有物分割請求訴訟を提起した場合

訴えの概要

母親と息子で共有しているマンションに対して、息子が共有物分割請求訴訟を起こし、自己の持分の価格賠償を求めたものです。しかし、母親には価格賠償に応じるだけの資力がない状況でした。一方、息子の方も価格賠償を行わなくても生活ができるほどの十分な資力がありませんでした。

裁判の結果

この場合、通常であれば、競売による分割が採択されるということが考えられます。息子にも不自由なく生活ができるほどの十分な資力がなかったことから、権利の行使が直ちに濫用にあたる状況とは言えません。

しかし、競売となると、母親の住む場所がなくなること、このマンションに対して母親が長年、管理をしてきたことや維持費を負担してきたことなどが考慮され、最終的には、息子の自己の持分の価格賠償請求の主張が、権利濫用にあたるとして、息子の請求は棄却となりました。

権利濫用の判断基準

この裁判の場合、息子の訴えが認められて、母親が住んでいるマンションが競売となった場合、母親の住むところがなくなってしまうということ、長年当該マンションを母親が管理し、維持費も支払ってきたことなどが考慮され、息子に経済的に余裕がない場合であっても、母親の居住する場所としてのマンションの必要性と息子の価格賠償請求の必要性を比較衡量した場合に、息子の共有物分割請求は権利濫用にあたるという判断になったというものです。

困ったときには弁護士に相談を

これまで見てきたように、共有不動産については共有者の数、規模や質、背景にある人間関係など、それぞれの不動産がまったく別の事情を抱えているのが実状です。

ですから、これまでの判例に、仮に類似の事例があったとしても、必ず共有物分割請求が権利の濫用と認められたり、権利の濫用とはならなかったりするとは限りません。

共有物分割請求をしたい側、共有物分割請求が権利の濫用だと主張したい側、それぞれに事情があります。よっと、共有物分割請求をできる、できない、または、権利の濫用を主張できる、できないということを決めつけてしまわず、迷ったらまず不動産案件を得意とする弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

何故なら、裁判より前の「協議」の段階であっても、これまでの裁判の判例などを参考に、相手方に対してどのように話を持ちかけるのが良いのかなど、効果的に主張をするために、法律関係のプロの目から見た意見を聞くことも非常に重要だからです。

まとめ

  • 共有不動産に関して、基本的に共有者の1人から、いつでも他の共有者に対して共有物分割請求をして共有状態を解消する申し入れをすることができる。
  • 話し合いを試みても解決策が得られない場合、最終的には「共有物分割請求訴訟」を起こして裁判所で判断してもらうこともできる。
  • ただし、居住者の事情や分割請求した者の経済的事情、物件の現状などを考えて「共有物分割請求が権利濫用である」などとして認められない可能性もあるため、不安がある人はあらかじめ弁護士などの専門家に相談しておく方がよい。

⇒共有不動産トラブルでお困りの方はこちら!