共有不動産・共有持分の相続トラブルの解決方法!
不動産は複数人で共有することができますが、色々とトラブルの種になるので、できれば共有状態を避けるほうが良いとされています。
不動産の共有は他人と共同で物件を購入するような場面だけでなく、相続の場面でもよく起きるので、相続を起因としたトラブル事例も多く報告されています。
本章では、相続に際して共有状態となった不動産についてどんなトラブルが起き得るのか、トラブルが生ずる原因や解決法などについて詳しく見ていきます。
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共有不動産とはどういうものか?
不動産を共有するということについては、法律上の概念と違った解釈をしてしまうこともあるので、最初に押さえておきましょう。
法律上の共有というのは、例えば一つの土地があるとして、西側の半分をAさんが、東側の半分をBさんが所有するというものではありません。
その土地全体について、AさんとBさんはどちらも所有権を有している状態です。
そして、所有権の権利の強さは「持ち分」という尺度で測られます。
各共有者は、持ち分に応じて対象不動産の全体を使用することができます。
ただし、実際の利活用については、持ち分が一番多い者が必ずしも全てを決定できるわけではありません。
民法では、共有不動産に対する行為と持ち分の関係について、以下のような規定があります。
①保存行為・・・持ち分に関わらず各共有者は単独で行える
②管理行為・・・共有持ち分価額の過半数の同意があれば行える
③変更行為・・・共有者全員の同意がなければ行えない
上記①の保存行為は対象物の現状を維持して価値の減少を避ける行為で、不動産であれば必要な修繕を行うなどの行為がこれにあたります。
②の管理行為とは共有不動産を利用・改良する行為をいいますが、共有者同士で利用するという意味ではなく、例えば第三者に貸し出して利益を得るような行為を指します。
第三者に貸し出すということは、共有持ち分を持っていたとしても自由な利用ができなくなるということですから、共有者にとって大きな制限が発生します。
ですから管理行為は持ち分価額の過半数の同意がなければ行うことができません。
③の変更行為というのは、例えば売却してお金に換えてしまうような行為や、建物の大幅な増改築を行う、田畑を宅地にするなど、法律的な変化や物理的な変化を伴うような行為をいいます。
例えば売却処分をしてしまえば、それ以後は不動産の使用が一切できなくなるわけですから、共有者の権利に与える影響は最大になります。
ですから変更行為を行う場合は共有者全員の同意が必要になります。
また過去の裁判例では、上記②の賃貸借であっても、借地借家法の適用がある場合や民法所定の短期賃貸借期間を超える場合は、管理行為ではなく変更行為にあたるとする判断もあります。
個別ケースでは実際の扱いを慎重に判断する必要があるでしょう。
共有不動産について、何らかの行為を行おうとする際には上記のように持ち分に応じた制限がでてくるので、共有者同士の意見が衝突し、トラブルに発展することが多くなります。
なぜ相続で不動産が共有されてしまうのか?
相続では不動産だけでなく、全ての遺産が承継者による分割対象になります。
それぞれの相続分は個別ケースで違ってきますが、現預金であればどのような割合でも細かく分割ができます。
しかし、不動産は物理的にカットして分割するということはできません。
例えば長男は不動産を、次男は現預金をといった具合で分割できればいいのですが、実際にはシンプルにいかないことも多いのです。
不動産も各自の取り分に応じて所有権を分割する必要性がある場合には、持ち分を設定して共有とすることもできます。
相続では相続人間での話し合いだけでなく、税務への対処など色々とやらなければならないことが多いので、「不動産は取りあえず共有しておくか」ということで、そのまましばらく放置されるケースも出てきます。
相続ではこのような経緯で不動産の共有が発生し、後のトラブルの種となります。
実際に共有不動産でどんなトラブルが起きうるのか、次の項で見てみましょう。
相続した共有不動産のトラブル事例
ここでは、共有不動産がどんなトラブルにつながるのか、代表的な例を挙げて、ケース別に要点を抜粋して見ていきます。
相続した自宅に住み続けられないケース
- 共同相続人Aは被相続人の自宅に一緒に住んでおり、当該自宅を共同相続した。
- Aは相続後もその自宅に引き続き住み続けたいと思っていたが、不動産の他にめぼしい財産がなかった。
- 共同相続人BとCの相続分を確保するため、自宅を売却しなければならず、Aは長年親しんだ住居を失ってしまった。
共有者から使用料の支払いを求められたケース
- 相続が起きた際に、遺産分割協議を経て長男と次男が二分の一ずつの持ち分で不動産を共有した。
- 当該不動産には長男が住み続け、次男は別の住居を持った。
- 次男が死亡すると、共有持ち分を二次相続した次男の妻が共有不動産の利用ができないことについて不満を募らせた。
- 長男は次男の妻から、不動産の使用料を支払うか、売却して持ち分に相当する金員の支払いを求められた。
不動産を売却したくてもできないケース
- Aは借金の弁済のために現金を用立てる必要が出てきたため、共有不動産を売りたいと考えたが、売却処分は共有者全員の同意がなければならないことから、他の共有者と交渉に臨んだ。
- しかし当該不動産を利用したい他の共有者が売却に同意してくれない。
- Aは不動産を売却して現金を調達することができず、借金の弁済に遅れて遅延損害金が生じた。
売却には合意できたが細かい条件が合わないケース
- 共有不動産を売却することについて、他の共有者の同意は取れた。
- しかし売却の条件面で折り合いが合わず、売却手続きを進めることができない。
- ある者は「3000万円以上でなければ売りたくない」、ある者は「懇意にしている不動産業者を介してでなければ売りたくない」など、不動産の売却自体には合意しているものの、その条件面で折り合えないため売ることができない。
固定資産税の負担で不平等となるケース
- 共有不動産の固定資産税は共有者全員に連帯納付義務が課されるが、納付手続きは代表者を定めて、その者が代表して納付することが多い。
- 代表者は他の共有者に応分の負担を求償することができるが、共有者が支払いに応じず、負担が代表者に集中してしまう。
経費や手間の面で不平等が出るケース
- 収益事業に用いている不動産がある場合に、収益は持ち分に従って各共有者が受領しているが、必要になる経費については特定の者が支弁しており、平等性に欠ける。
- また金銭面以外でも、共有不動産の整備にかかる手間に関して、特定の者だけに負担が集中し不平等が生じている。
有効な土地活用ができないケース
- Aは相続に伴い共有状態となった更地について、建物を建てて土地活用を行おうとしていた。
- 工事は順調に進んでいたが、土地に建物を建てる行為は変更行為であるから、共有者全員の同意が必要だとして、他の共有者から工事差し止めを求められてしまった。
連絡が取れない共有者がいるケース
- 共同相続後、長年共有状態となっていた土地について、アパートを建てて収益を出そうと考え、共有者と話し合いを持とうとしたところ、相手が行方不明となっていることが分かった。
- 勝手に手続きを進めるにはリスクがあるが、相手と連絡が取れないので話を進めることができない。
収益物件のリフォームが進められないケース
- 共有状態の収益物件について、必要なリフォームを考えているが、その行為が保存行為・管理行為・変更行為のどれに該当するのか関係者間で意見が食い違い進められない。
- 必要な補修を行うわけだから、保存行為として各自が単独で行えると主張するA。
- 補修の規模が大きいため、管理行為に当たるとして持ち分価額過半数の同意を要すると主張するB。
- リフォームの費用面で負担を感じるCは、変更行為に当たるとして同意を拒否。
- 話し合いは平行線でなかなか進まない。
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共有不動産の相続トラブルが生ずる原因
ここで、相続を介して共有となった不動産がどうしてトラブルの種になりやすいのか考えてみます。
一つには、共有の相手方が親族であるということが少なからず影響すると考えられます。
相続では、居住用不動産が共有状態になることが多いですが、実際にその物件に住むのは共有者全員ではなく、特定の誰かということが多いでしょう。
例えば、長男はその家に住み続け、次男は自然と家を離れて他所で暮らし始めるなどです。
その場合、住居として利用する者が独占利用する形になりますが、親族同士の関係が良好なうちは特に問題視されないことも多いです。
しかし、一旦関係が悪化すると、不平等感を強く覚える共有者が何らかの要求アクション起こしてトラブルに発展することが考えられます。
関係が良いうちは何も起きませんが、何らかのきっかけで関係が悪化すると、途端に不平等を感じ、家の明け渡しや使用料の支払いを求めるかもしれません。
法律上は共有者に対して明け渡しを要求することはできませんが、満足を得るために使用料の支払いを主張してくることは十分に考えられます。
また、持ち分の価額についても意見が衝突しやすい点です。
例えばAとBが持ち分二分の一ずつで共有している家屋があり、Bは自分で使用しない家屋の持ち分をAに買い取ってもらいたいと考えたとします。
仮にAが持ち分の買い取りに応じたとして、その買取金額をどうするかが問題になります。
Aの立場としては、少しでも安い金額で買い取りたいと考えますし、逆にBの立場としては少しでも高く買ってもらいたいと考えます。
不動産業者の無料査定を利用して相場をつかむこともできますが、業者によって査定額には数百万円程度の差が出ることもざらですから、AとBは自分に有利な業者の査定を盾に譲らないといったことも起こりえます。
国家資格者による不動産鑑定を利用する手もありますが、かなりの費用負担になるので気軽には利用できません。
さらに、相続では遺留分が問題になることもあります。
遺留分の侵害請求が行われた場合、金銭による支払いも可能ですが、現金がない場合は不動産の換価も考えなければなりません。
また不動産も遺留分の基礎財産に組み込まれますから、上述した財産評価についても問題になるでしょう。
全体として、相続では共有者同士が明確な共通の目的をもって不動産を共有するわけではないことが根底にあります。
例えば別荘を共同で購入するようなケースでは、目的は他の共有者とほぼ一致しています。
その後利用の仕方で意見の衝突が起きることは考えられますが、購入する時点では互いに衝突がないから共同購入することができるわけです。
しかし相続では不動産を共有することについて、そうした積極的で明確な理由がないことがほとんどです(特定の効果を狙ってあえて共有することもありますが)。
「話し合いが面倒だから」「時間がないのでとりあえず」といった消極的な理由で共有に至ることが多いので、相続における不動産の共有はそもそもが問題の起きやすい事象であるといえます。
共有不動産の相続トラブルの解決方法
では次に、共有不動産にかかるトラブルの解決方法について見ていきます。
当事者同士において考えられる手段としては、持ち分の放棄と話し合いの大きく二つに分かれます。
持ち分を放棄してしまう
面倒な共有トラブルから速やかに脱したいのであれば、共有持ち分を放棄してしまうのが手っ取り早い方法です。
放棄した持ち分は他の共有者に帰属することになり、以後は共有関係から外れることができます。
ただし、共有を外れることについて登記をしないと、固定資産税の納付義務を逃れることはできませんから、登記まで確実に行う必要があります。
登記手続きには共有者の協力が必要ですが、もし協力を拒まれても比較的簡単な裁判で解決が可能です。
持ち分を放棄せず、争点となっている事項について解決するには、裁判の前に必ず当事者間で話し合いが必要になります。
話し合いで調整する
どのように調整するのかは個別のケースで違ってきます。
例えば不動産を特定の者が使用し他の共有者が使用しないのであれば、不動産の使用料を支払って納得してもらうという方法もありますが、法的に支払いの義務があるか無いかは個別ケースによります。
収益物件の収益の分配や費用・手間の負担が問題になっているのであれば、持ち分に応じた利益と負担を調整する話し合いが必要になるでしょう。
その他、「共有不動産の相続トラブルの内容」で取り上げたようなケースについて、それぞれの論点を個別具体的に詰めて、当事者間で調整することになります。
当事者間での調整は、本人が納得すればそれでOKですから、うまくいけば実態に即した柔軟な解決が可能です。
具体的には、共有持ち分を誰かが買い取って単独所有としたり、物件を売り払って代価を持ち分に従って分けるなどです。
落としどころを捉えてうまく話をまとめることができればラッキーです。
しかし実際には、利害が対立する当事者間の話し合いでは解決が難しいことも多いです。
その場合は、裁判所に共有物分割請求の申し立てを行うことになります。
最後は訴訟で解決
当事者間の話し合いで解決できない場合は、裁判所に共有物分割請求の申し立てを行います。
関係者の主張を聞いて、裁判所は当該事案で最も合理的と思われる共有不動産の処分方法を決定します。
具体的には、土地であれば分筆をしてそれぞれ単独所有とし(現物分割)、共有状態を解除する判断をすることもありますし、単独所有を希望する者に他の共有者の持ち分を買い取らせる(価額賠償)こともあります。
どうしても調整が難しい場合は、競売を命じて換価処分をさせ、代価を分配して解決させる判断が下ることもあります。
行方不明者がいて話し合いができない場合は、相手の所在が分からなくても最終的には公示送達という方法で裁判を進めることもできます。
実務上の工夫としては、例えば争いが生じている相手が共有不動産に住み続けたいという場合、持ち分を買い取りに応じてもらえないのであれば、裁判で競売を主張していくというプレッシャーをかけることもできます。
競売になれば相手は住居を失うので、持ち分の買い取りに応じてもらいやすくなります。
裁判を利用するかどうかに関わらず、こうした折衝は交渉戦術に長けた弁護士が行うことで自方に有利に進めることができます。
裁判になった時には、裁判官に自方の主張を認めてもらいやすいよう、説明資料や証拠資料を用意しなければなりませんから、これも弁護士の腕の見せ所となります。
まとめ
本章では相続で生じやすい不動産の共有について、起きうるトラブル例や解決方法などを全体的に見てきました。
不動産の共有が望ましくないと一般的に言われるのは、共有者間で意見の相違があると自分が望む利用ができなくなる恐れがあり、売却などの処分も簡単に行えなくなるからです。
加えて、相続事案で実際に共有者間にトラブルが起きた場合には、親族間特有のしがらみなども関係してくるので、スムーズな調整が難しくなることも多いです。
相続と不動産の両分野に明るい弁護士が間に入れば、第三者的な目線で事案を捉えることができるので、相手の納得を引き出しやすい調整の仕方を提案できます。
訴訟となった時にも強い味方になってくれますから、不動産の共有で問題を抱えている方は一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
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